敷金返還交渉や賃貸トラブルには法律の知識やノウハウを知らないと多大な請求に驚く場合もあります。トラブル解決の方法、ノウハウや、コツについて解説します。

敷金返還訴訟判例

福岡地裁判例(平成17年10月15日、事例10)

(事実の概要)【敷金23万円、返還17万円】
借主Xは、平成14年11月、貸主Yとの間で賃貸借契約(賃料万円)を締結し、敷金23万円を支払った。
Xは平成15年10月に解約し、本件建物を退去したが、契約には敷金の23万円のうち75%は敷引き特約が盛り込まれていた。借主Xは破損が少なく、貸主Yに敷金の返還を求めたが拒否されたため、福岡簡裁に提訴した。
貸主Y「特約は有効で、敷引き金は補修費に使う」と主張。福岡簡裁は請求を棄却したが、控訴審の福岡地裁は主張を一部認め敷金のうち17万円の返還を命じた。

(判決要旨)
裁判所の判断は、
1)敷引き特約について「貸主と借主の利害を調整するうえで一定の合理性はある」
2)部屋の補修費は賃料から回収できる。
敷金を75%も差し引くことは不合理で25%を超える部分は無効である。
3)敷金25%分の約6万円を差し引いた17万円の返還を命じた。


神戸地裁判例(平成17年7月20日、事例9)

(事案の概要)【事例9、敷金のうちの敷引き25万円、返還25万円】
関西地方などでマンション明け渡しの際、損傷の有無にかかわらず敷金(保証金)の一部を差し引く「敷引き」特約は無効として神戸市中央区の男性(29)は、東京都港区の不動産業者に約25万円の返還を求めた控訴審判決で、神戸地裁は20日までに、返還請求を棄却した神戸簡裁判決を取り消し、業者に全額返還を命じた。

(判決要旨)
神戸地裁は「賃借人の利益を一方的に害し、消費者契約法により無効」と判断した。

大阪の弁護士らでつくる「敷金問題研究会」によると、控訴審で敷引きが無効と認められたのは初めて。同研究会の増田尚弁護士は「敷引きに法的根拠はなく、制度そのものに疑問を投げ掛ける判決。関西の慣例というだけではもう通用しない。制度を見直す時期だ」と話している。

(共同通信) -平成17年7月20日更新分より引用


大阪地裁(平成17年4月20日、事例8)

(事実の概要)【事例8、敷金のうちの敷引き40万円、返還32.6万円】
賃貸マンションなどを出る際に敷金の一部を家主が差し引く関西地方を中心とした慣行をめぐり、借主が「負担が重すぎ違法」などと返還を求めた訴訟で、大阪地裁の横山光雄裁判官は、敷引特約が消費者契約法10条に違反するとして、「適正額を超える部分は無効」と判断、8割余の返還を家主に命じた。

借主は、年6月、大阪市浪速区に所在するマンションの1室につき、家賃月7万円(共益費月1万円)、賃借期間2年との内容で賃借し、夫婦2名で、11カ月間居住し、2004年5月に引っ越した。

(判決要旨)
1)敷引制度そのものは「長年の慣行で必ずしも不当とは言えない」
2)保証金や契約期間などを考慮した適正額があるとし、今回の物件では「保証金の2割(10万円)とみるのが相当」と補修費の過払い分を含め約32万6000円の返還を命じた。


仙台簡裁判例(平成8年11月28日、事例7)

(事実の要約)【事例7、敷金19万8千円、返還16万1435円】
借主Yは、貸主Xとの問で平成2年2月28ロアパートの賃貸借契約(期間、賃料は不明)を締結し、敷金19万8千円を支払った。
退去後、Y立会いのもとAが点検をAが修繕を要すると判断した箇所及び見積額を記載した「退去者立合点検見積書」を作成したうえで、Yにサインを求めたが、Yは鵬に落ちなかったため、一旦は拒否した。


・工事内容
a)畳修理
b)ふすま張替え
c)壁修繕
d)天井修繕
e)床修繕
f)クリーニングエ事
g)その他修繕
h)玄関鍵交換
i)消費税


Xは、補修工事を実施し、33万6810円をため、賃貸借契約書の原状回復義務及び修繕特約に基づき、Yに対して修繕費等から敷金を控除した残金の支払いを提訴した。

(判決要旨)
裁判所は、
1)修繕を要すると判断した損傷箇所の内容等についての具体的明確な説明がなく、Aが部屋自体がそれほど汚いという記憶もなかったということから、使用により生ずる程度を超える損耗等があったとは認められない。
2)居住用の賃貸借においては、汚損は賃料によってカバーされるべきものと解すべきで、その修繕を賃借人の負担とすることは、賃借人に対して新たな義務を負担させるものというべきであり、賃借人がこの義務について認識し、意思表示をしたことが必要である。
3)修繕特約は修繕義務を免除したにとどまり、更に特別の事情が存在する場合を除き、賃借人に修繕義務を負わせるものではないと解すべきところ、本件において、特別の事情の存在を認めるに足りる証拠はない。

うちa)~e)の修繕費については、理由がないとして斥けるとともに、Yが敷金と支払い義務を認めるf)~h)修繕費及び消費税を対等額で相殺することを認めた。


神奈川簡裁判例(平成9年7月2日、事例6)

(事実の概要)
借主Xは、平成7年8月、貸主Yとの間で賃貸借契約を締結し、敷金36万円を支払った。借主Xは本件建物を退去後、貸主Yは、取替費用等約35万円を支出したとして、敷金から差引き、8100円のみをXに返還した。
訴訟期間中に浄化槽の清掃費(1万7200円)については支払うことで請求額を39万5989円に縮減した。

(判決要旨)
1)修繕費用を借主に負担させる原状回復の特約は、特別な事情がない限り認められず、借主に修繕義務はない。
2)借主は、畳を貼りけれぱならないほどの損傷を与えていない。
3)浄化檜の清掃は、修繕ではなく、その費用を特約により借主負担とすることには特別の事情を要しないため、借主に支払い義務がある。

以上から、Xの請求(縮減後の39万5989円)全額を認めた。


横浜地裁判例(平成8年3月25日、事例5)

(事実の概要)
借主Xは、平成元年7月2日、Yとの問でマンション(新築物件)の賃貸借契約を締結した。
契約期間は敷金19万4千円とし、Xは同日Yに敷金を交付した。平成3年7月2日の契約更新時に賃料が1万円増額され、Xは同日Yに敷金を追加交付した。

●工事内容
a)畳六畳の裏返し
b)洋間カーペットの取り替え並びに洋間の壁・天弗、食堂、台所、洗面所、トイレ、玄関の壁・天井の張替え
c)網入り熱線ガラスニ面張替え
d)トイレ備え付けタオル掛けの取付け


(判決要旨)
これに対し一審(保土ヶ谷簡判)は、
1)畳は、入居者が替わらなければ取り替える必要がない程度の状態であったから、その程度の損耗は損害と解すべきである。

2)洋間カーペット、洋問の壁・天井等は、カビによる染みがあったために取り替えたものであるが、本件建物が新築であったために壁等に多量の水分が含有されていたことは経験則上認められ、また、居住者がことさらにカビを多発せしめるということはXがそのような原因を作出したとは認められない。

控訴審においては、
1)洋間カーペット、洋問の壁、洗面所、トイレ及び玄関の天井及び壁に発生したカビについて、相当の程度・範囲に及んでいたこと、本件建物の修繕工事をした業者が同一建物内の他の建物を修繕をしたが、そこには本件建物のような程度のカビは発生していなかったことから・本件建物が新築でカビが発生しやすい状態であったことを考慮しても、Xが態様で使用したことから当然に生じた結果ということはできず、Xの管理、すなわちカビが発生した後の手入れにも問題があったといわざるを得ない。

2)カビの汚れについては、Xにも2割程度責任があり、「故意、過失により建物を損傷した有責当事者が損害賠償義務を負う」旨の契約条項により、Xは本件カーペット等の修繕費15万5200円のうち、約3万円を負担すべきである。

以上から、原判決(保土ヶ谷簡裁)を変更し、Xが請求できるのは、敷金21万4千円から3万円を差し引いた18万4千円とした。


川口簡裁判例 (平成9年2月18日、事例3)

(事実の概要)
借主Xは、Yとの問で平成5年12月19日賃貸借契約を締結し、敷金14万2000円を支払った。
Xは、平成8年8月16日に、本件建物を明け渡した。
Yは、以下の補修工事費用(合計12万2312円)を請求し、敷金のうち7万2312円をXに返さなかったため、Xはその返還を求めて提訴した。

・工事内容
a)ルームクリーニング費用
b)ガスコンロ内部クリーニング費用
c)畳替え費用
d)クロス張替え費用
e)クロスクリーニング費用
f)消費税

(判決要旨)
Xは夫婦二人で本件建物に居住したが、
1)2人ともタバコは吸わず、共稼ぎであったこと
2)Xは本件建物を退去するまで、賃料、公共料金の未払いは一切なかった
3)Xが本件建物の通常な使用収益を越えた方法により発生させた棄損箇所を認めることができない

本件建物は自然ないしは通例的に生じる損耗以上に悪化していることを認めるに足る証拠はない。

以上から、Xの請求を全面的に認めた。


東京簡裁判例(平成8年3月19目、事例4)

(事実の概要)
概要借主Xは、平成3年8月30日、Yとの間で東京都内のアパートの賃貸借契約を締結した。

契約期問は2年問、賃料月額15万円、敷金30万円とし、Xはその前日Yに敷金を交付した。平成5年8月30日の契約更新時に賃料が5千円、結果敷金も1万円増額されたのでXは同日Yに敷金を追加交付した。賃貸借契約書の「賃借人は明け渡しの際、自己の費用負担において専門業者相当の清掃クリーニングを行う」旨の特約に基づき、クリーニングを含む補修工事等を実施し、27万6280円を支出したとして、敷金との差し引き3万3720円を返還した。
Xが交付済みの敷金残額の返還を提訴した。

(判決の要旨)
これに対して裁判所は、
?@建物が経過によって古び、減価していくのはさけられず、賃貸人は減価の進行する期間、それを他に賃貸して賃料収入をその建物を状態に復帰させることまで要求するのは、当事者の公平を失する。
?A本件特約は、賃借人の故意、過失に基づく段損や通常で使用方法による劣化等についてのみ、その回復を義務づけたものと解するのが相当である。

以上から、Xの請求を全面的に認めた。


東京簡裁判例 (平成7年8月8日、事例2)

(事実の概要)
借主Xは、昭和60年3月16日Yとの間で賃貸住宅について賃貸借契約を締結した。
Xは、平成7年12月1日に本件建物を退去してYに明け渡した。Yは、その後原状回復費用としてビニールクロス張替え費用等56万5600円を支出し、本件契約の「明け渡しの後の室内建具、襖、壁紙等の破損、汚れは一切賃借人の負担において原状に回復する」との条項により、敷金を充当したとして一切返還しなかった。

(判決要旨)
これに対して、裁判所は、
1)建物賃貸借契約に原状回復条項があるからといって、賃借人は建物賃借当時の状態に回復すべき義務はない。
賃貸人は、賃借人が状態で使用した場合に経過に伴って生じる自然損耗等は原状回復条項は、賃借人の故意・過失、通常でない使用をしたために発生した場合の損害の回復について規定したものと解すべきである。

2)部屋の枠回り額縁のペンキ剥がれ、壁についた冷蔵庫の排気跡や家具の跡、畳の擦れた跡、網戸の小さい穴については、10年近いXの賃借期問から飲み物を紐毯にこぼした跡、部屋の家具の跡等については、賃借人が故意、過失または通常でない使用したための棄損とは認められない。

以上から、Xの請求を全面的に認めた。


東京地裁判例(平成6年7月1日、事例1)

原状回復にかかる判例の動向において、その裁判の争点について解説しますと、

1)退去後に賃貸人が行った修繕する必要のある損耗が、賃借物の通常の使用により発生する損耗を超えるものかどうか。

2)損耗が通常の使用によって発生する程度を超えない場合であっても、特約によって賃借人が修繕義務・原状回復義務を負うか否かの2つの点で争点があるといえます。
 
過去の判例においては、損耗については通常の使用によるものとするのが大半であり、さらに、特約条項がたとえ形式上あったとしても、契約の際その趣旨の説明がちゃんと行われて、賃借人がこれを充分に納得して承諾したときでなければ、その義務を負うものではないとする判決が示されています。

【東京地裁判例(平成6年7月1日) 事案の概要】
借主Xは、貸主Yから昭和62年5月本件建物を賃料月額12万門で賃借し、その際Yに敷金24万円を差し入れた。

敷金24万円 の契約は合意解除の上建物の明け渡しを終えたが、借主Xは畳みの張り替え費用249,780円を請求された。

平成5年4月本件契約は同日XはYに本件建物を明け渡したが、Yが敷金を返還しないので、その返還を求めた。本件契約には「XはYに対し契約終了と同時に本件建物を現(原)状に回復して(但し賃貸人の計算に基づく賠償金をもって回復に替えることができる)、明け渡さなければならない」という特約があった。これに対して原審(豊島簡判、判決年月日不明)は、Xの主張を認容した。
これに対してYが控訴した。

(判決)
これに対して裁判所は、
1)本件特約における「原状回復」という文言は、賃借人の故意、過失による通常で使用方法による劣化等についてのみ、その回復を義務付けたとするのが相当である。

2)本件においては借主Xは本件建物に居住して通常の用法に従って使用していたと認める。
Xは、用法に従って使用し、その増改築ないし損壊等を行うこともなく本件建物を明け渡したが、その際又は明渡し後相当期間内に管理人から修繕を要する点などの指摘を受けたことはなかった。

3)本件契約を合意更新する毎に1か月分を更新料として支払った上、Yは本件建物の内部を見て汚損箇所等の確認をしたり、Xとの問でその費用負担について話し合うことはなかった。

4)以上から、Xは本件建物を使い方によって使用すると善良な管理者の注意義務をもって物件を管理し、明け渡したと認められるから、右通常の用法に従った使用に必然的に伴う汚損、損耗は原状回復義務の対象にはならないと請求を認容した原判決は相当であるとして、請求を棄却した。



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